《MUMEI》
準備期間
 開催地が発表されてから、街は大混乱になっていた。
 大低の住人は、なんとか逃れようと荷物を詰め込んで、車で列を作っている。
 その様子をユウゴは歩道から冷ややかな目で眺めていた。

 耳障りなクラクションをうるさげに聞いていると、いつの間にか隣に学生服を着た中学生が同じように車の列を見ていた。
「……兄ちゃん、逃げないの?」
ぽつりと彼は言った。
 他に誰もいないので、ユウゴに言ったのだろう。
「お前こそ」
ユウゴは答えた。
「……だって、逃げても無駄じゃん」
「……だよな」
 二人の間に沈黙がおりた。
「……お前、何歳?」
「十五」
「ギリギリだな」
「そう。ギリギリなんだよ。ツイてない」
彼は肩を竦めた。
再び沈黙。
 クラクションの合間に、誰かの怒鳴り声が聞こえる。
「……兄ちゃん、子供は?」
「いるように見えるか?」
「いや。……お互いツイてないね」
「ああ。生まれる国を間違えたな」
 二人は顔を見合わせて、深くため息をついた。
「じゃ、がんばれよ」
「兄ちゃんもね」
 妙な会話を終え、二人は逆の方向に歩き出した。


「マジで生まれる国、間違えたな。世界は理不尽だ」
 言いながらユウゴは、ぼんやりと空を見上げた。
飛行機がまっすぐどこかに向かって飛んでいた。

 この街の住人でも逃げない連中がいる。
どういう連中かというと、今、目の前で店から品物を運び出している連中だ。
この状況で営業している店は皆無。警察さえ働いていない。
よって、どんな物も盗み放題なのである。
 まあ、盗んだ物をイベントで役立たせる奴などほとんどいないだろう。
 こういう行動をするのは考えなしの馬鹿が多い。

 ユウゴも品物を盗み出す連中の一人だが、しっかり考えて品を選ぶ。
 持ち運びやすく、なおかつ武器になりそうな物。
 イベント中、あまり多くを持っていては、いざというとき動けないだろう。
 迷った揚げ句、エアガン二丁と折りたたみナイフ、スタンガンを鞄に収めた。
エアガンの弾もたっぷり貰っていく。

 最近のエアガンは安全面から人に当たっても怪我をしない程度に威力が抑えられているらしい。
 改造すれば、威力は上がると聞くが、あいにくユウゴにそんな知識はない。
「まあ、なんとかなるだろ」
 盗賊よろしく、略奪を続ける連中を尻目に、ユウゴはアパートに戻った。

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