《MUMEI》

……うっすらと意識が戻って行く最中、声が聞こえた。


『時間が無い。』


何処か聞き覚えのあるその声に、安心感を覚える。


どう言う意味なんだろう?


そう思った時には、既に意識がハッキリと戻っていた。


ゆっくりと目を開けると、驚いて立ち尽くしているグレイドの姿があった。


「お前、誰だ?」


「え?」


「拓也か…?」


「…そうですけど…?」

そうは行ったものの、つい気になってクローゼットの扉に付いている鏡を見やる。


そこには……


俺の姿は写し出されて無かった。


しかし、俺と同じ高校の制服を来た少年が座り込んでいた。


髪は少し明るめの茶色で、グレイドと似た、尖んがった耳をしている。


更に、上唇と下唇の間には、小さな牙が覗かせている。


「誰だ…!!」


突然現われた知らない顔に、勢いよく立ち上がって身構える。


ところが……


鏡に映ったそいつは、俺と同時に立ち上がり、身構えていた。


腕は左右反対だったが、明らかに俺と同じ体勢をとっている。


……何…この人……。


初対面にも関わらず、まるで自分をバカにするような態度に腹ただしく思えた。


そう思うと、そいつに近付かずにはいられなかった。

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