《MUMEI》
田中祐也
その子供が住む離れは、昔母が旦那様の為に向日葵を植えていた土地に建てられていた。


(今はそいつが旦那様の元気の素って事なのか)


俺は、重い気持ちで、離れの扉を開けた。


その建物の内装は、ごく普通に思われたが、唯一普通じゃない部分があった。


窓が、一つも無いのだ。


その異常な空間にゾクリとしながらも、俺は平静を装い、旦那様と父と


旦那様が飼っている子供


祐也に近付いた。


今の俺は、父と同じ長袖の執事服と手袋を着用していた。


大学を普通に二十二歳で卒業した俺は、卒業式を終えるとすぐに屋敷に戻った。

そして、すぐに着替え、今では離れで生活しているという旦那様の元に向かったのだ。


その日は


また、三月十三日だった。

「ただいま戻りました」

「おかえり、忍。紹介するから、おいで」


扉の入口で固まっている俺を旦那様が呼んだ。


(ナンダ、コレハ)


「護(まもる)から聞いてるよね、祐也だよ」


護は父の名前だ。


「よろしく、忍!」


白い肌・黒い髪・青い瞳の子供が俺に微笑みかけた。

その、一瞬で心を奪う笑い方を


その顔立ちを


俺は、よく知っていた。

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