《MUMEI》
プロジェクト
留守電ボタンを押すと、母親からのメッセージが流れ出した。
地元に住む両親にはもう二年会っていない。
こんなことになって、きっと心配しているだろう。
ユウゴは久しぶりに実家へ電話した。母の声が懐かしい。
「うん、大丈夫。任せろよ。俺、昔っから運動神経だけはよかったろ?」
心配する母親にユウゴは努めて明るく答えた。
母親は心臓が弱いのだ、できるだけ心配をかけたくない。
電話を終え、ユウゴはエアガンの練習を始めた。せめて確実に目標に当たるようにしなければ役に立たない。
その一日、アパートの部屋に夜遅くまでパンパンと軽い音が響き続けていた。
次の日、ユウゴは淡々とイベントに持っていくものを鞄に入れたり、地図を眺めたりしながら準備に明け暮れた。
その様子だけを見ると、旅行前の楽しい準備のようだ。
外ではいまだに逃げようとする車の列が続いている。
「ご苦労なこった。体力の無駄使いだな。……今日は早く寝よ」
逃げ惑う人を見れば見るほどユウゴの気持ちは冷静になるのだった。 「俺は絶対、勝つ」
静かな決意を胸に、ユウゴは明日の準備作業に戻った。
いよいよ、その日がやって来た。
時刻は朝七時。ユウゴは近くの中学校の校庭に来ていた。
昨日届けられた案内状にここへ集合するよう書かれてあったからだ。
昨日早く眠ったおかげで今日は調子がいい。
他に集まった地域の人々はすでに疲れ果てたように、沈んだ表情で立ち尽くしている。
元気がいいのは、赤ん坊の泣き声くらいだ。
ユウゴは何気なく辺りを見回してみた。あの中学生は見当たらない。
地区が違うのだろうか。
しばらく待っていると、やがてキーンとスピーカーから不快な音が響いてきた。
その場の全員が動きを止めて、正面の朝礼台に注目する。
朝礼台には品のいいスーツを着た初老の男がマイクを片手に立っていた。
「えー、みなさん、おはようございます。いよいよ、第二十二回国民運動能力向上プロジェクトの開催日です。本年度、この街が選ばれたことは、何より名誉なことでございます。おめでとうございます」
男はそこで言葉を切り、集まった住民の反応を待った。
しかし、当然のことながら全員無反応である。
「……えー、私はプロジェクト実行委員の実川と申します。
では、あまり時間もないのでプロジェクトについて説明をさせていただきます」
実川は胸ポケットからマニュアルらしき冊子を取り出した。
「えー、まずこのプロジェクトの参加を免除される人を発表します。
免除対象者は十四歳以下の子供、およびその両親、六十歳以上の高齢者です。
はい、該当する人は速やかに校庭右にあります体育館前に移動してください。
その他の人は、例え国家公務員であろうとなんであろうと強制参加となっております」
バラバラと歓声があがった。
参加を免除された家族や老人が嬉しそうに移動して行く。
残された者はその様子を恨めしげに眺めていた。
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