《MUMEI》
厳の変装
「ゴチになりま〜す!」

「はいはい、どうぞ…」


部活を終えた俺達は、駅前のファーストフード店に集まっていた。


途中で抜け出した罰として、俺は部員全員に一品おごる事になったのだ。


(まぁ、百円だからいいけどさ…)


去年は二十人だった部員は今年は倍の四十人になっていたが、それでも俺にとっては大した金額では無かった。


「…て!厳!お前は違うだろ!」


俺は橋本君の後ろにチャッカリ並んでいた厳を引っ張った。


厳を頼だと思い込んでいた橋本君は、驚いて固まっていた。


「な、何でわかったんだよ〜。 俺、完璧だったじゃん」


確かに、今日の厳は、頼のようにキッチリ制服を着こなしていたし、髪型もワックスで整えていた。


厳はいつもはネクタイもしないし、シャツのボタンも二つ以上外すし、必ず一つは寝癖があった。


「汗臭いんだよ、お前は。大体、頼はスニーカーはかないし、お前みたいにポケットに手を入れないんだよ」

「…よっく見てるな〜」


(大体、誰のせいだと思ってんだ!)


俺は厳に事情を説明したかったが、松本が泣いた事を何となく言いづらくて、黙っていた。


「じゃあ、頼君は?」

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