《MUMEI》

「ただいま、百合絵(ゆりえ)」


旦那様は、何事も無いように、奥様に微笑んだ。


「やめさせて下さい!」

「おかえりは無いのかい? 私は君の夫なのに」


旦那様は視線を使用人の男に移した。


男は奥様の愛人で、弘也様の父親だった。


バキッ!!


「キャア!」


俺は、旦那様に言われた通り、他の連中には目もくれず、弘也様に三発目を入れた。


虚ろな瞳の弘也様は、悲鳴も上がらなくなっていた。

「邪魔しないでくれるかい? 君は百合絵を支えていてくれ」


旦那様は駆け寄ろうとする使用人を止めると、泣き崩れる奥様を指差した。


「どうして、ですか?」

「それはこちらの質問だよ。 あぁ、忍」

「はい?」


弘也に馬乗りになっていた俺は顔を上げた。


「肋骨。右の上から二番目と三番目」

「承知しました」


バキバキッ!!


「ッ…!」


痛みで弘也様は気絶した。

「祐也はもっと痛かったんだよ」


旦那様は吐き捨てるように告げた。


そして、役目を終えた俺は再び旦那様の背後に立った。


「弘也は、春日の後継ぎでしょう? あんな『ペット』と一緒に…」


パシッ!

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