《MUMEI》

「祐也を弘也『なんか』と一緒にするな」


旦那様が奥様の頬を叩いた。


「約束が違うではありませんか!」


気位の高い奥様は、激怒した。


「何の事です?」


旦那様が顔をしかめた。


「私と立花(たちばな)の子供を貴方の子供として…
春日の後継ぎにするっていうから結婚してやったのに!」


立花は、使用人の名前だった。


「破ってなんかいませんよ」


旦那様はため息をついた。

「あなたの息子は、弘也だけじゃないでしょう?」


その言葉に、俺も、奥様も立花もハッとした。


立花と奥様の間には、三人の息子がいたのだ。


「で、でも。弘也は長男で…」


普通、後継ぎといえば長男で


奥様も、そう思っていた。

「ここは、春日家で、今の当主は私ですよ?」


しかし、旦那様は実力主義で


「三人いるなら、一番優秀な人間を当主にするのが当然でしょう?」


…こういう、考え方なのだ。


「弘也の学校での評判を、私が知らないと思いますか?」


その言葉に、奥様が震えた。


弘也様は、学校で暴力事件や暴行未遂事件を起こしており、奥様はその度に金と春日の名前を使って解決していたのだ。

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