《MUMEI》

「弘也は後継ぎ候補から外します。

しかし、親子の縁は切りません。

将来、春日の本社に就職させます。

それで…よろしいですね?」


この、寛大過ぎる処分に、立花と奥様は深く頷いた。


そして、弘也の治療は、五時間後に始めるよう告げ、部屋を出た。


それは、祐也が庭で弘也に暴行され、父に発見されるまでの時間だった。


奥様と立花に医療の知識は無い。


そして、他の使用人と屋敷の主治医は旦那様の命令には逆らえ無かった。


「…意外そうだね?」


本邸から離れに戻る途中で、旦那様は足を止めて俺を見つめた。


何もかもが意外だった。


その中でも一番気になったのが…


「弘也の就職の件かい?」

俺は頷いた。


大して優秀でもなく、危険要素のある弘也を、何故将来本社に就職させるのかわからなかった。


「危険だからだよ。だからこそ、目の届く場所で監視するんだ。

それに、ああいう小心者は、ヤケになると今以上に馬鹿な真似をするからね」


(つまり、祐也の為にか。それにしても…)


俺は、弘也の血がついた手袋を見つめ、不思議だった。


(何で俺は、命令とはいえあんなに躊躇いなく弘也を殴れた?)

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