《MUMEI》

鼈甲飴とは懐かしい。
舌をざらつかせる摩擦や喉に焼けるような糖分がまた懐かしい。




「じろー舌見たい舌!」

二郎君の舌は赤く染まっていて見ようによってはエロチシズム……。

「おお、赤ーい!」

赤は興奮する色だからか、やたら二郎君の周りで友人ははしゃぐ。

「じろー、青いのと赤いの食べたら色混ざるかな?」


「え、食べたいの?同じじゃないそういうのって。」


「ん〜〜〜〜……」

二郎君の唇目掛けている。完全に興奮したな。


「飴を食え飴を!」

乙矢も慣れたもので平然と一連の流れを見守っている。

「か弱い赤ん坊と眼鏡を盾にするなんてヒキョーだぞ!」

乙矢の周りで追いかけっこし始めた。


「あは、かわえーね?」

……乙矢ったら三葉ちゃんあやしてばかりで全然こっち見ない。
折角、袴乙矢の為に超☆舌技をアピールして飴を舐め切ったのにな。


「青と赤混ぜたら紫なんだよ、ね?」

乙矢と俺の舌で試してみませんかという視線も……ゴリゴリと歯ごたえの良い音で粉砕された。
乙矢君は人前だと全然相手にしてくれないからつまらないです。

着物着ても見劣りするし乙矢は袴でエロカッコイイしで新年から最悪だよ……。

「三葉の面倒見てくれてありがとねぇ、お守りや破魔矢を買ってたらつい時間が……」

にぱにぱと笑顔を振り撒きながら足元がぐらついて危なっかしい男性がやってきた。


「あ、やっぱコケた。」

そういえば、のほほんとしているところは二郎君似。

「大丈夫ですか?」

利恵さんは転んだ彼に手を差し延べる。


「わわわ、ありがとうございますう」


「あ、恋のニホヒ……」

誰かの声に岸君がギクリとした。


「ああ、いけないロマンスのな……」

岸君が電気でも走ったみたいになった。


「うわああああああああああああああああああ聞こえませんよ、キーコーエーナーイー!」

頭を振って何かと葛藤している岸君は正直、面白くて仕方が無い。


「岸君が崩壊した!」

一時流行ったフラワー●ックを思い出したよ。


「二郎達のお友達?」


「乙矢の知り合いみたい。」

「タロ兄、飴貰ったー。」

話を聞いていると兄弟みたいだな。


「わあ、よかったねー。」

独特な和やかオーラを纏っていて好ましい……。



「……あの、良ければお名前を……」

名刺を渡されてしまうくらいに利恵さんも気に入ったようだ。


「美作太郎です。この子が三葉です。」

乙矢の抱く三葉ちゃんを指す。
彼が実の三葉ちゃんの父親だったか。


「可愛いお子さんですねっ……俺は利恵さんの同僚で岸です!」

岸君たら見苦しい。

「ああ、早く帰らなきゃまだ買い物ありましたよねえぇ……?!」

見苦しいたら……!


「見ているこっちが悲しくなるよね?」

二郎君が同情の瞳をしていた。

「それじゃあ、帰ろうか。会えて光栄でした、またお会いしましょう。」

これ以上、岸君の醜い姿はさらせないよ。
……俺もそうだ。

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