《MUMEI》
最期の日
「旦那様」

「忍…」


その日、俺と旦那様は祐也のいる離れではなく、本邸の旦那様の部屋に来ていた。


今朝


祐也の声が、『子供』から『大人』に変わっていたのだ。


…前兆は数日前からあった。


しかし、旦那様は風邪だと思い込もうとしていた。


(随分遅い方だと思うがな…)


今、祐也は十四歳。


普通に学校に通っていれば、中学三年生なのだ。


そして、季節は秋だった。

「体はまだなんですから、声を潰して…」

「そんな酷い事はできない!」

「祐也にとっては、旦那様に抱かれない事の方が酷い事ですよ?」


俺は、旦那様の恋愛対象で無くなったあの日の胸の痛みを思い出していた。


(きっと祐也は耐えられない)


(ショックで死ぬかもしれない)


そう思ったが、口には出さなかった。


旦那様は賢い人だ。


俺が考えている事位、わかる。


わかってしまう、頭のいい

可哀想な人なのだ。


「忍。…祐也は、私が普通の生活をしろと言ったら、どうすると思う?」

「祐也は、旦那様の側を離れませんよ、絶対」

「…だろうね」


その、泣きそうな笑い顔が、俺が見た旦那様の最期の姿だった。

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