《MUMEI》
越えるべき壁
旦那様の葬儀が終わり、屋敷内が落ち着いた頃、俺は離れを訪れた。


(ここからが、一番の問題だ)


中にいる祐也は何も知らない。


俺は、そんな祐也を何とかして、普通の生活が送れるようにしなければならないのだ。


それも、誰の手も借りずに、一人で。


それが、旦那様の遺言だから。


旦那様は、祐也が、『自分を愛してくれたのは旦那様だけ』という状態でこの屋敷を出る事を望んだ。


だから、俺は祐也の両親の

姫華様の想いを伝えずに、祐也を説得した。


旦那様が少年しか抱けない事


声変わりをした祐也を旦那様が抱けなくなった事


…それから、自殺の理由については…


俺は、旦那様が祐也を愛しているうちに死にたくて死んだ


祐也のせいで死んだ


そういう事にした。


(嘘じゃ、無いし)


旦那様が祐也を愛していた事も


愛する祐也の為に死を選んだ事も事実だった。


(旦那様の死を乗り越えろ、祐也)


俺は、祐也が死を選ばないように、旦那様が死んだのはお前のせいだから生きて償えと怒鳴った。


憎まれても、俺への憎しみが祐也の生きる力になるなら、それでも構わなかった。

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