《MUMEI》 松本のセンス「ふ〜ん…」 志貴は、至近距離で松本の姿を見つめた。 「すみません、すみません…」 「何で謝るの?」 志貴の質問に、松本がビクッと震えた。 「お店で騒いじゃったし、…それに」 「『それに』?」 「わ、私なんかが田中先輩の、か、彼女と間違われてしまって つ、つつ津田さんの方がお似合いなのに… なのに、すみません!」 松本は、これでもかっていうくらい、深々と頭を下げた。 志貴は、無言でため息をついた。 「碧(みどり)ちゃん、どう思う? この子?」 「へ?」 碧ちゃんというのは、俺達に話しかけてきた一番年下のスタッフだ。 童顔で、志貴より年下に見える碧さんは、志貴の言葉に首を傾げたが、すぐに意味を理解して、答えた。 「可愛いし、センスあるよ? 自分に似合う色わかってるし」 その言葉に、松本が真っ赤になった。 (確かに) 俺が松本を『可愛い』と言ったのも、決してお世辞じゃなかった。 メイクも服装も ちゃんと、松本に似合っていた。 「言っとくけど、ここのスタッフは下手なお世辞は言わないからね」 志貴の一言に、松本は開きかけた口を閉じた。 前へ |次へ |
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