《MUMEI》
何とか脱出
(ん? そうすると…)


「柊と希先輩は苦労知らず夫婦になるのか?」

「結婚したらね」


俺の呟きに、貴子さんがツッコミを入れた。


「付き合う前に柊が苦労したからいいんじゃない?」
「あ、そうか」


柊の苦労は確かに普通じゃなかったし


希先輩も、実は大失恋していたから、志貴の言葉に俺は納得した。


「あの、結局今日は買い物しなかったけど、いいんですか?」


松本が恐る恐る口を開いた。


「また来てくれたらいいわよ。そうだ。田中君、よかったら試着してく?」

「え?」

「そういえば、祐也の服装、地味ね」

「えぇ?」

「田中先輩は、もっと明るい色が似合うと思います」

「ええぇぇ?」


「ありがとうございました!」×3


その時、タイミング良く他の客が帰っていった。


クルリッ!


(ゲッ!)


三人のスタッフが同時にこちらを向いた。


俺を見つめるその目はキラキラと輝いていて


(味方いないじゃん、俺…)

このまま、着せかえ人形に…


(ってダメだ!背中!)


「悪い、俺、帰る! 松本!今日の礼は、後でメールするから!」


そして俺は、素早く店から立ち去った。

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