《MUMEI》
ゲームスタート
「今日までの二日間、街から逃げようとした方々にはペナルティーを与えます。
鬼の人には目標人数プラスあと十人。子の人はこれをつけてもらいます」
 実川が両手で重そうに取り出したのは、黒い小さな輪。
「これを足につけて逃げてもらいます。該当する人には校門のところで係りの者が手渡します。拒否することはできません。
えー、それでは子のみなさん、順番に逃げて行ってください。
開始時刻は今から一時間後。サイレンと共に鬼がスタートします」

 なるほど、子が先に街へ出て隠れ、鬼が見つけて追いかける。
ようするにこれは大規模なかくれ鬼といったところか。

 指示に従いユウゴは出口へ向かった。
 門のところで男が二人、ファイルを手に出ていく人を確認している。
さらにその傍に銃を構えた警備隊が数人。
 怪しい動きを見せたらすぐに撃つつもりなのだろう。
(俺らは捕虜かっての)
 ユウゴは男たちにガンつけながら校門をくぐった。
係りの男と目があったがすぐに逸らされた。
 その男のすぐ後ろにさっきの黒い輪を持った人達が途方に暮れて自分の足と輪を見比べているのが見えた。

「いよっし。行くか」
 ひとまず、どこかに隠れて様子を見よう。
どこがいいだろうか。

 ユウゴは考えた末、密集したビル群の中の一番背の低い建物の屋上に決めた。
 背の高いビルでは、逃げる時に不利だ。
「よし、ここがいい」
 一人頷き、ユウゴは屋上に昇った。
「おお、バッチリ見えるじゃん」
 ビルの屋上からはすぐ下の大通りがよく見えた。
まだバラバラと逃げていく人の姿が見える。

 ユウゴは時計を見た。あと四十五分。
 サイレンを待つ間、ユウゴは地図を頭に叩き込むことにした。
 昨日はてっきり去年と同じ種目と思い込んでいたため、大きな通りしか頭に入れなかった。
 しかし、今回は大通りより裏道を覚えたほうがよさそうだ。
 ユウゴは地図に書かれた細い線を指でなぞりながら、片っ端から頭に叩き込んでいった。

 どれくらい経っただろう。
ファーン!と、突然馬鹿でかい音が響いた。
「おわ!びっくりした〜」
 体をビクっとさせユウゴは何ごとかと首を巡らした。
 空襲警報のようなサイレンは、この街のあらゆる場所から鳴り響いている。
「始まったのか」
時計を見ると、ジャスト十時。
 ユウゴは大通りを見下ろした。
まだ、まばらに人が歩いている。
 やがて向こうから走ってくる人影が見えた。
 しかし、大通りを歩く人々は気付いていない。
 走る人影はまっすぐに大通りに入るかと思いきや、ピタっと立ち止まった。
「……なんだ?」
 不思議に思いながらその様子を見ていると、パンと軽い音が響いた。
同時に大通りの一人が倒れた。
 辺りに悲鳴が響き、歩いていた人たちが一斉に散って行く。
残ったのは、倒れた人と走って来た人。
 走ってきたのはおそらく鬼。
そしてさっきの音は……
「銃か」
ユウゴは呟いた。

やはりそう来たか。
 鬼が子を捕まえる。すなわち、鬼が子を殺す。
おそらく、鬼全員に何らかの武器が支給されているのだろう。
 下では、早くも一人を殺した鬼が悲鳴なのか雄叫びなのかよくわからない声を上げている。
「ゲームスタート、か」
ユウゴは叫び続ける一人の鬼を見下ろしながら呟いた。

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