《MUMEI》
獣人&黒服
しばらく歩いていくと剣戟の音が聞こえてきた。どうやらそちらに向かっているようだった。
「まったく・・何故私がこんな事しなければならないんだ・・」
ぶつぶつと文句を言っているのが聞こえやや困った顔をする狩月。
(なんか困ってばっかりだな・・仕方ないのかもしれないけど・・)
周囲には軽装の人々が木剣や木槍などで打ち合いをしている。訓練所のようだった。合間を縫うように奥へと進んでいくと開けた空間があり、そこでは騎士であろう二人の試合が始まった所だった。
周りでは様々な声援が飛び交っている。
「目、覚めたのか〜良かった、良かった。」
そう言いながら肩にポンッと手を置かれて驚く狩月。そこには狩月を撥ねた獣人が立っていた。
「バンプ副長。ロナイが言うには対した事はないそうです。」
すっと相手を見、そう返す式夜。
「えっと・・・」どう答えれば良いのか困っていると獣人がすっと手を出してきた。
「僕の名前はバンプ。一応、守護騎士副団長だ。昼間はごめんね。急いでたものだから・・」
すまなさそうに頭を掻いている。効果音をつけるなら・・ポリポリと言ったところだろうか。
バンプ、そう名乗った獣人はワーウルフ、そう呼ばれている人種であると思われる。黒茶色の毛の中に一房柔らかく銀色に光る毛が流れている。瞳は優しそうに笑みを湛えている。
「狩月です、えっと・・迷惑かけたみたいで・すみませんでした。」
「こっちの方が悪かったんだし・・で?何か用事があるみたいだって聞いたけど?」
えっと・・そう言いながら、思い出そうとする。
「記憶喪失ですか?」
ぼそりと式夜が呟く。その言葉に驚き
「えぇ!!!嘘・・本当に?やっばいな〜〜・・」
バンプがどうしよう?といった感じで頭を抱えだす。効果音をつけるなら・・おろおろと大きく書いておきたいくらいだ。
「落ち着いてください、もう一回跳ね飛ばせば直るかもしれませんので・・」
「わ・・・分かった!!痛いかも知れないけど・・君のためだしね?」
そう言うと腕を振り上げる。
「だっだ・・大丈夫ですって!!!覚えてます!!覚えてますから!!」
青ざめた顔で叫ぶ。その様子を、見て腕を降ろすバンプ。
「な〜んだ。良かった・・も〜式夜。悪い冗談言わないでよ。」
「私の責任にしないでください。私はあくまで可能性の一つとして挙げたに過ぎません。」
淡々と言っていく。すっと狩月の方を見て
「それで?貴様は一体何の目的で主人に近づいたんだ?理由によっては、ここで斬らせてもらいますが?」
腰にある剣に手をかけ、尋ねる。明らかに臨戦態勢。
「え・・・いや、あの・・・・・」
「だ〜〜式夜・・脅かしちゃダメだって・・何にもしないからさ。何か用事あったんでしょ?」
「用事ってほどじゃないんですけど・・その、この世界に来たばっかりで・・訓練ってどんなことしてるのかって・・興味があって・・その、覗いてみたいな〜って思っただけで・・」
やや引きつった顔でそう答える。
「へぇ〜そうなんだ。だったら丁度いいじゃないか。次は確か彩とごまの試合だろ?」
試合をしている様子を指差しながら狩月に笑いかける。
「そうですね。主人の剣技は素晴らしいですし、ごまの技も力任せとはいえ見る価値はあります・・ですが副長、この男が視れるとは思えませんが?」
わぁ!!っと一際大きな歓声が上がる。
「お、勝負がついたみたいだ。こっち来なよ〜よく見えるよ。」
そう言うとすっと前へ出て行く。試合が良く見える場所へ移動するようだ。
式夜はすでに試合会場を見ている。

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