《MUMEI》 翌日も、外は雨が降り続いていた 時刻は午後の五時半 仕事帰りの高城は、昨日借りた傘を片手にまた喫茶店を訪ねていた 閉店の片付けに忙しく働く彼を暫く眺めていると 「いらっしゃい。お待ちしてました」 高城の存在に気づいた相手が、抱えた観葉植物をまた降ろし近く歩いてくる すぐ間近に、相手の顔 笑みを向けられ、やはり高城の顔に朱が走る 胸の内がひどく高鳴り、その場に落ち着いていられなくなってしまう 「どうか、しました?顔、真っ赤ですよ?」 熱でもあるのでは、と大きな手が高城の額に触れ 益々朱の色が濃さを増していった 何でもない、と高城は言って向けると 借りた傘を相手へと差し出して向ける 「これ、ありがと。それじゃ」 短い礼で踵を返せば、もう帰るのかとの相手からの声 手を引かれ、否が応にも脚が止められていた 「何?」 胸がうるさく高鳴るのを感じながら それでも努めて素気なく返せば 「……お茶、飲んで行きませんか?」 との誘い その声の柔らかさに誘われ、高城は自然に頷いて返していた 手近な椅子へと腰を降ろせば、ミルクティーの入ったカップが目の前 相も変わらずいい香りに、高城は無意識に胸を撫で降ろす 「……アンタの作ってくれるミルクティー、何かほっとする」 壱日も終わり、外で疲れきった心と体に甘さが心地よく 素直にその事を告げてやれば相手は嬉しいのか子供の様な笑い顔を浮かべた 高城の向かいへと腰を降ろすと 「なら、これからは毎日とは言わないので、此処にきてくれませんか?」 との申し出が その意図が分かる訳もない高城が小首を傾げれば 相手の唇が耳元へと寄って来た そして 「……俺の事、もっと知って貰いたい。それで、出来れば好きになって貰いたいから」 甘い、言の葉が続く 好きになって貰いたい その言葉に胸が高鳴り動悸が起こる 「一目惚れ、なんです。名前、聞いてもいいですか?」 告白は更に続き、照れてしまった高城はその場にいる事が落ち着かなくなっていた 照れてしまうという事は 少なからず高城も彼に対し特別な感情を抱き始めているわけで 朱に染まった顔を伏せながら 「名前、アンタが教えてくれたら教えてあげる」 そう言って向ければ 「本永 喬樹です。初めまして、って言うのも何かおかしいですけど」 真っ直ぐな笑みが向けられた 常に柔らかな優しさを向けられて 出会ったばかりだというのに、本永の傍らに居心地の良さを覚えてしまう 一目惚れなど、絶対に信じる事はないと思っていたのに いざソレを経験してみれば、ヒトはその感情にひどく従順だった 「……高城 ちずるです。は、初めまして」 本永の事を知りたいと思う ミルクティーの湯気越しに本永を眺めながら 高城は照れたような笑みを向け これから始まる恋愛の予感に、名前を名乗ったのだった…… ミルクティー End 前へ |次へ |
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