《MUMEI》
入学
春の柔らかな風に乗り、桜の花びらが舞っている。この時期にはある種の人が増える。様々な期待、不安を抱えながら、新たな世界にこころを弾ませて町中を歩く人だ。
戸田弘一もその一人にあたるのだろう。[私立高宮学園]に入学したのは、何の面白見のない生活にうんざりしたからだ。
「おはよ。」
不意に声を掛けられ、思わずどきりとした。弘一の後ろには弘瀬七海が立っていた。
「なんや。お前かいな。びっくりさせなや。」
「びっくりしたって何よ。別に初対面の女の子に声掛けられた訳じゃないでしょ?」
「せやかてこっちには知り合いなんかお前くらいしかおらんねんから、いきなり声掛けられたらびびるっちゅうねん。」
七海は弘一の父の妹の娘で、従兄妹にあたる。肩の下辺りまで伸びた髪は前髪を残して後ろで綺麗に束ねられていて、キャラメル色に染まっている。染めてから時間が経つのか、生え際から2センチほどが黒くなっていた。丸顔で目が少し垂れている七海に、よく似合っている髪型だと、弘一は思った。
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