《MUMEI》

「たーまお、柔らかいね。」

千守さんは不意打ちが好きみたいだ。
今も背後からしがみつかれた。



千秋様の目を盗んでこっそり密会……!

僕は千秋様の兄弟仲を復活させる為に相談しているはずなのに、千守さんに難しい名前の美味しいお菓子を貰って僕はそれを食べて満足して帰っている。

これの繰り返しだ……



「は、離して下さいぃ」

僕が千守さんと仲良くなっちゃうよ……!
仲良くというよりは肺が潰れちまうよ……!
千守さんのホールドは凄い強い。
あのすらりとした体躯にこんなに強靭な筋肉が隠されているのか……!


「珠緒の髪ふわふわする……つむじは甘い匂いするんだね。食べたお菓子が滲み出るのかな。
でも手触りは動物っぽいんだよねぇ、
ね?どう思う?」

千守さんに質問された答えが思い浮かばない。
後ろから羽交い締められながら頭頂部を嗅がれた。


「あわわ……」

こそばゆい!
歯を噛み締めて我慢する。


「我慢強いね。いい子だほら、今日はザッハトルテだよー?」

何語か分からないお菓子を渡された。
肩は動かせないが腕は自由がきく。


なんて美味しそうな薫りなんだ……高級なもので僕みたいな一般市民が口にするのもままならないような品なのだろう。

仄かな甘さと間に挟まっている何かの酸味が病み付きになりそうだ。

千秋様ごめんなさい、僕は千秋様に内緒で美味しいものを戴いてしまいました……!


「手、汚れたちゃったね。」

手首を掴まれて千守さんは僕の指を凝視する。
指が千守さんに近付いて行く。
――――――噛まれる!





 ちゅ


「……チュ?」


「あまいね。」

千守さん、噛まなかった。
た、たぶん指先を唇で拭って下さった。


白い学生服は王子様にも見える、女の子だったらめろめろだあ……。

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