《MUMEI》
屈辱の夜
自信満々の不破野は、嫌らしい笑みを浮かべた。
「ついてるぜ。みゆきみたいなイイ女を彼女にできるなんて」
みゆきは今まで経験したことがない緊張感を味わっていた。
万が一にも不覚を取り、不破野のテクニックで落とされたら、こんな卑劣なバカ男の彼女にさせられてしまう。
だが、無謀な賭けとも思えなかった。
みゆきは高校生のとき、親しい友達が皆経験していて、まだ未経験の自分を悪友たちが「貴重」とか冷やかす。
本来高校生で未経験は普通なのに、みゆきは焦って好きでもない男子としてしまった。
後悔した。
あれは好きな人とするものだと痛感した十代の夏。
しかし、社会に出てから何人かと付き合ったが、ベッドの上であまり感じなかった。
おそらく心底好きでないと快感は得られないタイプなのだ。
みゆきはそう思った。
だからエクスタシーは未経験だ。
初体験が苦い経験だけに、彼女は、初エクスタシーを甘い初体験にしたいと思っている。
だから嫌いな男に触られても汚らわしいだけで、感じない自信が、みゆきにはあった。
先ほどはレイプされないために弱気な態度をしていただけだ。
こういう賭けなら強気に出れる。
不破野が、みゆきの枕もとにある時計を指差した。
「みゆき。この時計が1時ジャストになったら始めようぜ」
みゆきは時計を見た。
そんな時間になっていたのか。深夜のホテル。ベッドに手枷足枷が付いているところを見ると、SMホテルかもしれない。
「1時10分になったら解放してよね」
「大丈夫。約束は守るよ。みゆきも守れよ。感じてきちゃってから賭けは許してって哀願してもシカトするぜ」
みゆきは心底呆れた顔をして言った。
「嫌いな男に何されても感じないのが女。あんたが今まで付き合ってきた尻軽女とは違うのよ」
「言ったな。そこまで大口叩いて気持ちよくなっちゃったら笑ってあげるね」
1時になった。
緊張の一瞬。
不破野は余裕の笑み。両手、すなわち十本の指が円を描きながら、触れるか触れないかのソフトタッチで、胸やおなか、脇腹やももなどを、触りまくる。
「寝てていいかしら」
「どうぞ」
いちばん敏感なところは攻めない。内股など周辺までは来るが、直撃はまだだ。
みゆきは軽く腰を動かした。
「気持ちいい?」
「バカな。くすぐったいだけよ」みゆきは赤い顔をして横を向いた。
不破野はなおも両手で円を描きながら、全身へのソフトタッチを繰り返す。
「みゆきの性感を高めるマッサージだよ」
「バカバカしい!」
みゆきは吐き捨てると、時計を見た。
「1分経ったわよ」
このバカに、正常な女性はテクニックでは落ちないことを教えるのも悪くない。
みゆきはそう思った。
思い上がった根性を折ってやりたい。
不破野はいよいよ下半身への攻撃を開始した。
嫌らしく内股をまさぐり、ついにみゆきのいちばん敏感な箇所を攻める。
みゆきは唇を固く結び、緊張した面持ちに変わる。
両脚をぴんと伸ばし、腰も動く。
卑劣な不破野の指は邪悪な生き物のごとく、みゆきの大切なところをかわいがり、中へと侵入する。
みゆきは慌てた。妙な気持ちになってきてしまった。
(しっかりしなきゃ)
油断は禁物。気持ちを確かに持てば大丈夫。多少感じてしまったとしても、落とされることはない。
みゆきは深呼吸して、平静を装った。
(あたしとしたことが、情けない)
快感は徐々に高まる。こんな愚劣な男に初エクスタシーを奪われるわけには絶対にいかない。
みゆきは歯を食いしばった。
「みゆき。Gスポット攻めていい?」
みゆきは無視した。
「女の子は急所を押さえられたら、どうにもならないってことを、今から教えてあげるね」
「バカバカしい!」
強気な姿勢は崩さない。
しかし…。
(あ、嘘!)
まずい。本気で感じてきてしまった。みゆきは慌てた。
目が泳ぐ。
(何で、何で?)
自分が情けない。

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