《MUMEI》 タイミング「かえせ? どういう意味だ」 「わかりませんけど、そんな感じに聞こえました」 羽田が答えると、副長は困ったような表情で腕を組んだ。 「んー、つまりは結局何もわからないってわけだな」 「……そうですね。あと少しで何かわかりそうなんですけど」 羽田が言った時、向こうの方でパッと一瞬光が輝いた。 「なんですか、今の?」 「ああ。誰かが照明弾でも使ったんだろう。マボロシの中には光に弱い奴もいるからな」 副長の答えると、凜が「ところで」と口を開いた。 「どうしていきなりマボロシが大量発生したんでしょう?」 「さあな。昨日から突然この状態だ。こちらの対応も全く追いつかない」 「昨日……」 呟くように言うと、凜は羽田に視線を見た。 「先生がこちらの世界を見るようになってからですね」 「え……?」 凜はまっすぐに羽田を見つめている。 それにつられるように副長も羽田を見つめた。 二人に見つめられ、羽田はついうつむいてしまう。 「……先生」 少しの沈黙の後、おもむろに凜が口を開いた。 羽田はゆっくりと顔を上げる。 凜は羽田の顔を見つめたまま、言葉を続ける。 「何かしたんですか?」 「え、わたしが?」 「何かしたのか?」 副長までも真剣な表情で聞いてくる。 もちろん羽田に心当たりなどあるわけもない。 羽田は大きく首を横に振った。 「何もしてません」 「そうか」 なぜか少し残念な様子の副長に凜が言った。 「でも、タイミング的に先生はこの事態に関係しているはずです」 「……とにかく、今ここで考えていてもしかたない。いつマボロシが襲ってくるかわからんからな」 「でも避難所には行きませんよ。せっかくここまで来たんですから」 強い口調で言った羽田に、副長は仕方なさそうに頷いた。 前へ |次へ |
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