《MUMEI》
屈伏
みゆきはポーカーフェイスを保とうと必死だった。
感じていることを不破野に悟られてはいけない。とことん意地悪されるに決まっている。
「みゆき。どうした。気持ちよくなっちゃったの?」
「くだらない」みゆきは横を向く。
「そういう生意気なこと言うとねえ、こういうところ攻めちゃうよ」
「あん」
まずい。不意打ちに変な声を出してしまった。
みゆきの様子に勝ちを確信した不破野は、容赦ない攻撃を始めた。
(やだ、どうしよう)
みゆきは焦った。悔しいけど気持ちいい。これほどの快感は初めての体験だった。
彼女はもがいた。不破野の卑劣な手指から逃れようと腰をくねらせた。
それがダメなら手足に渾身の力を込めて手枷足枷をはずそうとした。
「みゆき。口ほどにもないね」
「うるさい!」
赤い顔をして不破野を睨むみゆき。
「ちょっと、もう、やめなさいよ、イライラするな!」
「やめないよ。やめるわけないじゃん」
本当に嫌らしいところを攻めてくる。みゆきは激怒していた。
「卑怯よ、寝ている間に手足縛るなんて。ほどきなさいよ!」
しかし不破野は勝ち誇った笑顔で攻め続ける。みゆきは時計を見た。
「みゆき。まだ5分もあるよ。耐えられる?」
「勘違いしないで。汚らわしくて耐えられないのよ」
「そういう風には見えないけど」
不破野が顔を近づけてきた。みゆきは唾を吐こうと思った。痛い目に遭わされたほうがましだと思った。
いや、逆上してレイプされたら意味がない。
みゆきは唾を吐くのはやめた。
「みゆき。そろそろトドメ刺してもいい?」
「くだらない」
「これでも?」
「あん…」
ダメだ。限界だ。どうにもならない。
みゆきは弱気な顔に変わった。
とにかく屈伏だけはどんなことがあってもしたくない。
負けたくない。
早く何とかしないと危ない。
(どうしよう)
「みゆき。いただくよ」
「あっ…ちょっと、ちょっと!」
みゆきは両目をきつく閉じ、白い歯を見せて食いしばる。
こんなセクシーな表情に不破野の興奮も最高潮だ。
「みゆき。俺のものだよ」
「ふざけないで」
「これでも?」
「あ、ああ…」
耐えられない。
みゆきは哀願に満ちた目で不破野を見つめた。
「みゆき。参った?」
「まさか」
「降参?」
みゆきは熱い眼差しで不破野を見た。良心はないのか?
「降参?」
みゆきは無言。
「みゆき。降参したら落とすのはカンベンしてあげるよ」
「え?」
一筋の光明。
「でも彼女にはなってもらうよ」
もはや絶望的か。無謀な賭け。今さら悔いても遅い。
「それは、困る」
「かわいい!」
あれほど強気だったみゆきが弱気丸出し。不破野のサディスティックな興奮を倍増させてしまった。
「みゆき、じゃあ逆がいいのか?」
「逆?」
「彼女になるのは許してあげるけど、一発やらせろ」
みゆきは愕然とした。
「それは…」
「何、両方許してって言ってんの?」
みゆきは頷く代わりに見つめた。
「甘い!」
「ああ、あああ!」
みゆきは暴れた。
(どうしよう、イッちゃう!)
悔しいけどこの男にお願いして許してもらう以外に助かる方法はない。
「不破野さん待って」
「名前なんか呼んだってダメだよ」
「違うの、ちょっと待って」
「待たないよ。時間で賭けてんのに待つわけないじゃん」
限界だ。みゆきは本気で慌てた。
「待ってください、お願いですから」
「かわいい!」
みゆきの態度に不破野はエキサイトした。
「降参?」
「それは…」
「降参したら、両方許してあげようか?」
「え?」
みゆきは頷いた。
「負けを認めるかみゆき?」
どこまで卑劣な。しかし許してもらうしかない。
「認めます」
不破野は攻撃をやめた。みゆきは横を向き、目を閉じると涙を流した。
(悔しい。でも今はガマンだ)
ほどいてもらうまで気は抜けない。
「みゆき。キスさせて」
(嘘でしょ?)

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