《MUMEI》

「千秋様は林檎お好きなんですよね……僕、林檎のパイ作ります。」

千秋様に喜んでもらうぞ!


「珠緒、千秋兄さんはタルトタタンが好きだよ。」


「タッタカタンですか?」

難しい名前だ。
どんな高級な品物なんだろうか。


「ブー、タルトだよ。」

千守さんにデコピンされた。意外と痛い……。

「珠緒はそんなことよりも千秋兄さんを驚かすことに集中しなさい?」


「はい……」

千守さんは笑顔を振り撒いてくれるが、ふわりとした新井田さんの類では無く、一言も口答えを許さない。




「見て……珠緒、今日は生キャラメルだよ。」

千守さんの今日のおやつは沢山ある。


「うわあ、全部ですか?!」


「そうだよ。全てお食べ。」


一粒一粒は小さいが量は鞄いっぱいに成る程だ。

色んな種類があるし美味しくてどんどん入ったが、流石に半分行くと限界という二文字が見えてきた。


「……うぷ」

駄目かもしれない。
胃が満杯だ。


「千秋兄さんは珠緒が生キャラメルを鞄に沢山持って帰ったらどう思うかな?兄さん甘いものはそんなに好きじゃないからね、珠緒はどう思う?」

千守さんは新しく包みを開いて僕の口へと運んだ。


「……ぶぎゅ」

甘味が脳を活性化させたのだろう、千秋様の全てを凍らせるような冷笑が鮮明に瞼の裏に見えた。


「こぉらあ、ちゃんと飲み込む。」

喉元で詰まっているのがバレてしまい口を両手で塞がれる。

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