《MUMEI》

「‥えっと‥、はい、カバン‥」

小坂は拾い上げたカバンを僕に差し出した。

ほんとはここでお礼を言わなきゃならないんだけど──‥

僕にはそれが出来ない。

「ほ、ほな‥ウチ‥ちょっとお水飲みに行って来るわ」

小坂は無理矢理な笑みを浮かべると‥‥

僕のすぐ脇を擦り抜けて行った。

何か言いたげな感じがしたけど‥‥

引き止める事はしなかった。

いや‥

出来なかった。

今はその方がいいって思ったんだ。

あいつの為にも‥。

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