《MUMEI》

利恵さんの乱れた運送で帰宅する。
乙矢も初乗りで不安の色を隠しきれてなかった。

その間に乙矢の手を握っても払われなかったので余程のものだったらしい。


「袴って着付けられないんだけど。」

そういうのやったことないな。


「綺麗に畳めばいいから。着替えはあるだろう?」

家の箪笥の一番下は乙矢のもので…………たまに俺のオカズです。


「じゃ、俺も……」

着替えるかな。


「駄目。」

乙矢はキッパリ言う。
命令された通り居間で待つ。(着替えを盗み見てたのがバレてからは鍵を掛けられた。)



「後で紙袋貸して」

乙矢は着替え終えたようだ。
ふふふふ、袴乙矢は見納めだがデジカメで残してるもんね。


「そんな、事務的な言葉を欲しい訳では無いの……」

乙矢君は意地悪いな。
わざと一人掛けの椅子を選んだりして。


「着物買ったんだな。」

乙矢は余裕有りまくりだ。
俺一人悶々として何か温度差を感じてたり……


「数年前に大きい買い物しようとテキトーに……」

嘘です
乙矢に見せたくて衝動買いしました。


「そう。よく似合うからちゃんと考えてかったのかと思った。」


「ごめんなさい嘘です。乙矢に和な俺を見て欲しくて着ました。」

俺、忍耐力皆無……!

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