《MUMEI》
†出会い
陽気な朝に目覚まし時計の悲劇が一件。

「……しまった。」

現在午前七時四十分。

高校に向かって歩き出しているであろう時間にもかかわらず、ベッドの上で目覚めた少年が一人。

今井翔は今まさに記念すべき入学式に遅刻するという不名誉な歴史を自らに刻もうとしていた。

「なぜ…なぜだ…。」

目覚まし時計として使用していた時計には彼が起きるちょうど五分前である六時二十五分を指したまま。

「アルカリか…アルカリなのか…マンガン電池では駄目なのか!?」

電池について悟りを開こうとしていると、そこへ
「お兄ちゃーん、朝ご飯はどうするの〜?そろそろ出たほうがいいんじゃないの〜?」

優しくドアを叩きつつ、少々不安そうな声で尋ねてくる少女。

この少女こそ今井翔の実の妹であり、本日めでたく中学ニ年生になる今井春香である。

母親は春香が中学生になる頃には亡くなっており、父親は只今単身アメリカで職に就いているため、家事全般は妹である春香が行っていた。

春香は兄のプライバシーを守るべく、ギリギリまで自分から部屋へ入ることはやめようとしていたが、今となってはそれがあだとなり兄は遅刻寸前である。

「お兄ちゃんは遅刻寸前だから朝ご飯は食べれないかな、ごめんな」

片手を顔の前にやり、かるく謝るポーズを作る。

翔のクセだ。

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