《MUMEI》

「──ここでいい」

「ホンマにええの‥?」

「──うん」

新木は頷いてフェンスから少しだけ身を乗り出した。

流れてきた風が‥

黒い髪を微かに靡かせる。

雫がキラキラ光る中で‥‥

そいつはどこか遠くを見とる。

「何見てるん‥?」

「──海」

「海‥?」

目を凝らすと‥

ずっと向こうに海岸が見えた。

「海──好きなん?」

新木は答えんかったけど‥

表情でそれとなく分かった。

そういえばそないな本読んどったやんな‥。

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