《MUMEI》

あまりに儚げな彼女に林太郎は憐憫と、庇護欲を植え付けられる。

長い細やかな刺繍が施された袖口が風で膨らみ黒い羽のようだった。
小さな肩を震わせる彼女を無性に愛おしみに酷似した想いで哀れんでしまっていた。


そうまでして溢れ出したのだ、林太郎は想い人で或る窓際の君も許容するだろうと判断した。
抱き寄せる、彼女の体は吸い込まれるような、しかし包まれているような感覚を覚えた。

「見つけた、此処に居たのか。」

誉の声がした。
素早く林太郎は離れる。

「自覚し給え……君にはいくらの価値があるのか。」

誉の饒舌は相変わらずであり、独り言が次々と流れていた。

誉に背中を押され彼女は室内に導かれる。
林太郎は茂みの中で彼女が見えなくなるまで眺めていた。

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