《MUMEI》 エクスタシーうずくまる不破野に、赤坂は言った。 「残念ながらオレは独身だ。自慢じゃないが恋人もいない」 みゆきは聞き逃さなかった。 不破野が警官に連行されると、赤坂は振り向いた。 「赤坂さん」 シーツにくるまる被害者が自分の名前を親しげに呼ぶ。 赤坂はみゆきの顔をよく見た。 「ああ、君は」 「わかりますか?」笑顔で見つめる。 「わかるわかる」 女性刑事が聞いた。 「お知り合いですか?」 「うん」赤坂はみゆきを見た。「内緒だよ。サボリがバレる」 「サボリだったんですか?」みゆきは白い歯を見せた。「調べものじゃなくて」 「そうそう、調べものだよ、調べもの」 二人は笑顔で見つめ合っていたが、赤坂が真顔で聞いた。 「大丈夫?」 「大丈夫です、あたし何もされてませんから!」 みゆきは慌てて言った。 数日後。 みゆきが店に出勤すると、梓が教えてくれた。 「みゆき、赤坂さん来てるよ、116番」 みゆきはどぎまぎした。 「ありがとう」 あれから警察署で恋人のように優しく励まされたことを思い出す。 住所や電話番号も赤坂に教えた。 連絡は特になかったが、来店は嬉しかった。 もう来ないのではないかと思っていたからだ。 みゆきは、客が読み終えた雑誌やマンガを元の棚に戻していた。 すると、純が飛んできた。 「レジ行きな、早く」 友情とはありがたいものだ。 みゆきはレジに急いだ。赤坂が伝票を持ってカウンターにいた。 「ありがとうございます。800円になります」 赤坂は千円札を出す。 「1000円お預かりします。200円のお返しです」 みゆきは緊張していた。 「会員カードをお返しします」 赤坂は会員カードをしまった。みゆきは周囲にだれもいないことを確認した。 「赤坂さん」 「ん?」 「この前は本当にありがとうございました!」 みゆきは深々と頭を下げた。 「あれがオレの仕事だから」 「いえ、人生の恩人です。ちゃんとお礼がしたいんです」 「もう十分お礼はされたよ」 「赤坂さん」みゆきは熱い眼差しで迫った。「あたしに、ちゃんとお礼する機会を与えてくれませんか?」 赤坂は驚いた目に変わった。 みゆきは顔の前で両手を合わせた。 「お願いします」 男はこのポーズに弱い。 「わかったよ、電話する」 みゆきは笑顔が輝いた。 「ありがとうございます。待ってます。あたし待ってますから」 赤坂は笑顔を向けると、エレベーターに乗り込んだ。 みゆきが両手で口を押さえている。純は心配して歩み寄った。 「ふられたの…アタッ」 梓に頭をはたかれて厨房に連れて行かれた。 みゆきは感極まってしまった。 気持ちが伝わるのは本当に嬉しい。 乙女心をわかる優しい男性は素敵だ。 みゆきは心底赤坂勇を好きになってしまった。 日を置かず、すぐに赤坂から電話があった。 ホテルの1階にある洒落たレストランで食事をした。 きょうは赤坂は電車らしい。 二人はワインを飲み、恋人同士のように談笑した。 「白状すると、オレは君に会いたくて店に行ってたんだ」 みゆきはドキッとした。 「ワイン一杯で酔っちゃったんですか?」 みゆきは笑いで逃げた。 「みゆきチャンの接客が素晴らしくてね」 「接客ですか?」 みゆきが不満な顔をすると、赤坂が腕時計を見た。 「みゆき、帰る?」 「え?」 さらに不満な表情を浮かべるみゆきに、赤坂は囁いた。 「それとも、泊まってく?」 あちゃー。 やられた気がした。でも好きなのだから、わざと罠にはまるのも悪くない。 みゆきは笑顔で睨んだ。 「狼に変身しないと約束してくれるなら」 「大丈夫。今夜は満月だ」 全然質問に答えていない。みゆきは思わず笑った。 「嘘、あん!」 赤坂はうま過ぎる。みゆきはベッドの上でメロメロにされた。 「やめて、やめて!」 理性を飛ばされ、乱れまくる。 「あ……」 みゆきは、初めて落とされた。 END 前へ |
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