《MUMEI》

「兄貴!待って!」
日高は立ち上がりお兄様に近寄る。
お兄様はうって変わって穏やかな表情で振り返った。

「メイっちが選んだ男だ、ちょっと気にいらねーけど我慢してやる」

「違うよ!違う〜」
今にもじたばたしそうな勢いの日高の背中、俺は黙ったまま二人を交互に見るだけで。
「ピアスだよ〜!そのピアスなんなんだよ〜!」
「ピアス?あー、ありがとな、メイっちなかなか俺の趣味分かってんじゃん、早速女に穴開けてもらって付けちまった」
そう言いながらピアスがじゃらじゃらつく耳を弄っているお兄様。
日高は本格的に足踏みをしだした。

「ちが〜う!そ、れ、はあ!まこちゃんに…フガッ!!」
俺は瞬間に全てを察し慌てて日高の口を手で塞いでいた。

「良かった、日高さんに良く似合って、はは…、日高アクセあんまり知らないって言うから俺が一緒に選んだんです、うん、髪の色にバッチリあってるし!」
「フガッ!な!ン〜〜!!」
「なんだ、やっぱりそうか〜、洒落っ気のないメイっちがピアス買うなんてちょっと違和感あったから、ま、そういう事か、……ま、礼は言っとくぜ」

お兄様は部屋を出て行った。するとすぐに女の大きな声がした。
やっぱり女いたのか、向こうは静かにしていたらしい。


「ヒグッ…、ヒグッ…、ぅう″…、ヒグッ…」
「日高ぁ〜、泣くなって〜」
背中を摩りながら細い肩に顎をのせる。僅かに匂うシャンプー、柔らかい髪が愛しくて堪らない。

「まこちゃんに買っのに〜…、まこちゃんに、まこちゃんに!」
テーブルの上にピアスの入ったケース置いといたらいつの間にか消えていたらしい。やたらピアスつけていた耳も昨夜二カ所追加されたらしい。

「昔からジャイアンなんだ、すぐなんでも持ってくんだ」
「そっか、そっかあ〜」
「ダイアの代わりにまこちゃんに付けて欲しくて選んだピアスだったのに、まこちゃんイメージして選んだのに」
ぎゅうぎゅう抱きしめて日高は擦り寄って甘えて。

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