《MUMEI》

誰か、気配がする。
体育館の隅から点々と光り輝く。

近付いて来るのは蝋燭の火をマッチで点灯する千守さんだった。


「綺麗……」

蝋燭に包まれて幻想的だ。


「珠緒ったら兄さんが来るのにみっともない恰好して……そんなんじゃ一人で脱げないね?」

千守さんにシャツの釦を外されてゆく。
でも両手が絡まっているので袖が脱げない。


「あのー……千守さん、千秋様は?」


「髪、乱れてるよ。直してあげるからね。」

整髪剤なのか、髪に何かが塗られた。

「よく見えないな。」

蝋燭を翳される。








「ピギャアーーーーーーーーーーーーーーーッ!」

熱い!
熱い熱い熱い!


「あは、やっと伸びてくれたあ。」

千守さんは暗がりで蝋燭の光の中でいつもの柔和に笑いを浮かべていた……。


いけない、僕ったら熱さのあまりに前髪が伸びてしまっていた……!

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