《MUMEI》
「………退け。」
凜とした声、高すぎず低すぎずその細首から出るべくした相応しい音色。
―――鼓動が高鳴る。
もっと耳に入れたい。
「………二度も同じこと言わすんじゃあ無い」
うっかり聞き惚れてしまった。凄く立腹なようだ、
しかし、手を離そうにも躯を俺に預けている。
とりあえず俺は硝子を扱うよりそっと立ち起こした。
地上に自力で歩く彼……、確かに彼だ。
一瞬見てしまった下半身、酷く自分が汚らわしい生き物に感じた。
…見てる。
俺の事を。
包帯の中から覗かせるどんな宝石も敵わない眼球。
虚ろでまだ焦点が合っているのか不定。
心臓が身体を蹴破るのも時間の問題だ。
ヤバイ、なんだ、何なんだ。
どうして 此処に居るの?とか。
どうして 全裸なの?とか。
どうして 飛び下りるようとしたの?とか。
下らない質問達に潰されそうで、この場を走り去るしかなかった。
彼はただ、佇んでいた。
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