《MUMEI》
遭遇
 しばらく走って振り返ると、すでに追ってくる奴らはいなかった。
「おっさんばっかでラッキーだったな」
 ユウゴは近くの公園の木の陰に座り込んだ。
いつの間にか、耳も治っている。
(それにしても……)
ユウゴは思った。
 一体どれだけの鬼がいて、どんな武器を持っているのか。
 手榴弾を支給しているとしたら、もっと強力な物もあるかもしれない。
 対してこちらはエアガン、スタンガン、ナイフ。
「……勝てねえだろ、普通に」
 まずは、武器の調達をしたほうがよさそうだ。

 ユウゴは少し休憩してから、公園を出た。
ここら辺にはまだ鬼たちは来ていないのか、静かである。
……と思ったのもつかの間、角を曲がると全力で走ってくる女の子と出くわした。
 ユウゴに気付いた彼女は慌てて止まり、キッと睨んで「鬼?」と聞いてきた。
「いや、子」
 彼女はユウゴが武器を持っていないことを確認すると、安心したように息を吐いた。
「よかった。いろんなとこから悲鳴は聞こえるんだけど、誰とも会わなくて。あ、鬼には会ったけど」
「みんなどっかに隠れてるんだろ」
彼女は周りを見回した。
「だろうね。あんたは?隠れないの?」
「そっちこそ」
「わたしは隠れてたけど見つかったの。で、逃げてた」
「……あいつらから?」
 ユウゴは彼女の後ろに視線を向けて言った。
彼女も振り向き、頷いた。
「そうだった。立ち話してる暇、なかったんだ」
言って、彼女は再び走り出す。
「つーか、早く言えよ。追われてるって」
ユウゴも後に続いて走り出した。

後ろからは「二匹になったぞ!」と怒鳴る声が聞こえる。
「言ったらあんた、一人で逃げたでしょ?」
「ったりまえだろ」
「男のくせに」
「はあ?関係ねえだろ。男でも女でも自分が一番に決まってんだろうが」
「ああ、もう、うるさいな。そんなことより、後ろの奴、どうにかしてよ」
「ああ?」
ユウゴは振り向いた。

鬼は二人。
割と若い男女。
二人とも三十代くらいだろうか。
女の手にはノコギリ。そして、男の手には……
「ボウガンか」

どうやら旧式らしいボウガンは、やけに大きく、走りながらだと狙いが定まらずに撃つことはできそうにない。
 しかし、どこからか狙い撃つには使えそうだ。
「よし、任せろ」
「え?」
 ユウゴは腹とズボンの間に挟んでおいたエアガンを取り出した。
「ちょっと、それって本物?」
 彼女は走りながら目を見開いた。息が随分あがっている。
「んなわけねえだろ。エアガン」
「エアガン?おもちゃでどうしようってのよ?」
「まあ、見てろよ」
 ユウゴは走りながら体を捻り、後ろの男に向かって撃った。そして、今度は立ち止まり、女に向けて引き金を引く。
『ぎゃあ!』
二人は同時に悲鳴を上げながら、うずくまった。

弾は見事に顔に命中したらしい。
練習の甲斐があったというものだ。
ユウゴはすかさず、鞄からスタンガンを取り出し、二人の首筋に当てた。

二人の鬼はビクッと体を痙攣させ、倒れた。
「ほら、どうにかしてやったぜ。お礼は?」
鬼たちの意識がないことを確認してから、ユウゴは顔を上げた。

彼女は少し離れた場所から息を切らせてこちらを見ていた。
「あ、ありがとう」
 意外と素直に謝る彼女の顔が次の瞬間、強張った。
「う、後ろ!」
「え?」
 振り向こうとしたユウゴの体は、衝撃を受けて吹き飛ばされた。

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