《MUMEI》
随分大きいじゃあないか、165センチあるかないかの俺を抱き抱えることも容易であったであろうしっかりした体躯。
和室は頭を低くしなければ入れないな…
光りの角度で染めたであろうブラウンの髪が赤み帯びた。
なんて、眼をして見ているんだ。犬だ、犬。
睨みを効かせたときに身を引く様が、眼が、怯えたときの、ソレそのものだ。
去っていく犬。
頬に残る温もりに、
ふと肩を寄せた。
「…アラタ!」
30分遅れでやっと到着。俺に向かって歩み寄る。服を拾いながら目の前でシャツを肩に掛けた。
「そんな恰好で、どうした?何か着ないと、誰かに見られたら大変だ」
「………ん。」
俺は大人しく従っておくことにした。服をゆっくり着込んでいく。
「……終わったか?」
背中を向け、聞いて来た。こっちを見ようとはしない。意識しているのか。
「……これがそうなの?」
背後から手を回す。
もう服を着たという証拠の長いセーターの袖が見えて安心したようで、振り返り俺に写真を渡す。
「………これが復讐する相手?」
写真を覗く。
口元が歪んだ。
「ふふ、なんて可哀相な犬」
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