《MUMEI》 1そう… 彼と初めて会ったのは 終電帰りの駅だった…。 忙しい日々の中で… ただ、せわしなく生きてる私の目の前に 彼は立っていた…。 少し肌寒いこの季節に ヨレヨレの長袖一枚… おもむろに取り出した ギターケースを開け 慣れた手つきで シャッターの閉まった 古ぼけた文房具屋の前に あぐらをかいた…。 家路を急ぐ人込みの中で 彼は一人… この世界で唯一 “自由”な気がした…。 長い指先で ポロポロとギターを 奏でる彼…。 音を合わせ終わると 大きく深呼吸をした…。 そして… 彼は歌いだした…。 私の想像より 高い声に驚く…。 目を瞑りながら 熱唱する彼は 外見からは想像も出来ないくらい力強い歌声…。 耳を傾ける私…。 彼の歌は ストレートな歌ばかり…。 “アリガトウ” “愛してる” “泣かないで” “側にいる” “笑顔を見せて” “頑張りすぎないで” “僕は知っている” “君は一人じゃない” 歯痒いほどの歌詞が 並ぶ…。 そんな彼を じっと見ていた。 “この人は… なんて心の綺麗な人なんだろう…。 なんて純粋な人なんだろう…。” 彼の歌を聞きながら 私は、泣いていた…。 10曲程、歌い終わった頃だろうか…。 彼がいきなり 立ち上がった…。 気が付くと しゃがみこんで 聞き入っていた私…。 ふと我に返り 恥ずかしくなった。 急いでコートの袖で 涙を拭く…。 すると、 彼が向こうから 小走りでこっちに向かって走ってきた…。 驚く私…。 彼はジーンズの ポケットから何かを取り出し私に渡した…。 “…ポケットティッシュ” それは駅のすぐ向かい側でやっているサラ金屋 『☆無人24時間☆ 誰でも簡単即ローン!』 と書かれた ティッシュ配りで貰える やつだった…。 『はいっ!』 泣いている私に 半ば強引にティッシュを 手渡した彼…。 『ありがとう…。』 …これが これが結婚式では 『友人の紹介です。』 と嘘をついた 私達の本当の出逢いです。 |
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