《MUMEI》

「人によって味が違うの?」

「そうですね、人によって違ってきます」

「そっかぁ‥」

アンリ様は、両手を口元に持っていき、はぁ、息を吐きました。

「今日は何を作ってくれたの?」

「アンリ様のお好きなフィナンシェを。紅茶は──」

「ローズティー?」

「はい」

そう答えると、アンリ様は目を輝かせて微笑みました。

「私大好きなの」

その表情を見て、僕は嬉しく思いました。

長い廊下を抜けて広間に入ると──アンリ様は甘い匂いに満たされた空間にうっとりとした様子で、また微笑みました。

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