《MUMEI》

その表情が段々と楽し気に、そして嬉し気にほころんでいくのを見、中原は肩を揺らすと同じく花へと眼をやった
だがやはり、何を映す事もしなくなってしまった片目は中原から彩りを半分奪ってしまう
今までは仕方のないことだと諦めていたのだが
今はソレが少し残念に思えていた
柄にもなく物思いにふけっていると、横から唯の手が伸び
中原の包帯を何故か解いていた
「見えなくても、見せてあげようよ」
開かれた眼
モノこそはっきりと映す事はなかったが
舞って散るその彩りだけは微かに感じる事が出来ていた
「……今日は、色々ありがと」
その事に満足気な顔を浮かべていた中原へ
唯からの感謝の言葉
一体何に対しての礼なのかを問うてみれば
「……デート、してくれてるじゃない。だから、ありがと」
照れたように顔を伏せ呟く
礼を言いたいのは中原も同じだった
久方ぶりに左眼に彩りを感じられたことに嬉しさを覚え
その事を教えてくれた唯に、中原からも感謝の言葉だ
「ありがとな」
中原からとった包帯を握ったままの唯の手を取ってやれば
弾みで包帯が手元を離れ花雨の中を泳いでいく
「包帯、飛んで行っちゃった……」
「要らねぇよ」
「え?」
「もう、隠すのはやめた」
見えないからと、全てを遮ってしまうのではなく
まだ少しでもモノを見る気がこの眼にあるなら見せてやろうと
唯の言葉に、中原は柔らかな笑みを浮かべたのだった……

サクラドロップス End

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