《MUMEI》

一旦アンリ様から離れて御邸に戻り、幾つか道具を持ち出すと──僕はあの薔薇の所に向かいました。

幾重にも花びらを纏ったその赤い花を切り取ると、ラッピングペーパーで茎を包んでピンク色のリボンを結びました。

それを片手に、アンリ様の元へと戻ります。

「──アンリ様」

跪いて呼び掛けると、俯いていたアンリ様がほんの少し顔を上げました。

そして、目の前に差し出された薔薇に目を輝かせて、ようやく微笑んで下さいました。

「ありがとう」

大事そうに薔薇を受け取ると、甘い芳香にうっとりとしていました。

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