《MUMEI》

「本当にいい香り──」

実に嬉しそうにしてらっしゃるアンリ様に、僕はホッとしました。

アンリ様は本当に薔薇が御好きなようで、紅茶や香水も薔薇の物がお気に召してらっしゃいます。

「ねぇ、お邸に戻ったら花瓶に差して飾りましょ」

「──はい」

そう答えて、僕は微笑み掛けました。

ですが今朝の事といい先程の事といい‥今日は何やらいつもとは違うような気がします。

尤も、僕がきちんと制御出来てさえいれば、何の問題も無かった訳なのですが──。

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