《MUMEI》 次第に陽が傾き始め──空が赤く染まっていきます。 「薔薇の色みたい──」 ふとアンリ様が呟かれたのを、僕は微笑ましく思って、 「そうですね」 さり気なく囁いてみました。 アンリ様は僕の方を向いて小さく頷くと、再び夕空を見上げました。 淡いピンク、紅、紫──恰も薔薇で染めたような色合いに、うっとりとして。 「───────」 空が瑠璃色に染まった頃、アンリ様はようやく我に返ったようでした。 「御戻りになりますか」 手を差し延べると、 「──うん」 そっと、アンリ様の小さな手が重なりました。 前へ |次へ |
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