《MUMEI》
口には決して出さなかったがクラス全員斎藤アラタに心奪われたであろう。
その日から
そっと彼を見守ることがこの学校の義務だという暗黙のルールが生まれていた。
彼が廊下を歩けば全ての人間が目で追った。
放課後の帰り道。
「樹はあんな中途人間が好みなんだ?」
耳にアヅサの声、わざとねっとり張り付く嫌な言い方をしている。
「…何て事言うんだ、」
アヅサを制する。
「男だか女だか判らないってだけじゃない、見た目以外もさ。死んだみたいに生きてる、左目の包帯もゾンビみたいじゃん。」
「……アヅサ!」
「庇うんだ?かなり的を得ていると思うけど。
好きなら、俺が手伝ってやろうか?」
「…相手しなくていい?」
呆れた。
「ずっと見つめてたじゃないか。
斎藤アラタと重ね合いたい、違うのか?」
よくもまあ、恥じらいも無しにポンポン言葉が出て来るもんだ。
「アヅサ、勘違いしているようだから言わせてもらうけど、例えば夜散歩していたら百年に一度だけ現れる流星群が通ったとする、当然見ると思うけど?
それにちゃんと俺には恋人だっている。」
オーバーに手を胸に当てて主張。
「俺という愛しい恋人が?」
アヅサの応対に溜息が出た。そんな俺を気にも留めずに続けて言った。
「流星群?興味ないね、好きになったら理屈なんて要らないだろう?」
時々、アヅサの発言にはドキッとさせられる。
その後は何も話さないで単調な帰り道を歩いていた。
普段、俺達は話さない方が普通だ。
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