《MUMEI》
志貴と拓磨
(真司、忍みたいだな…)


そんな事を思っていると


「拓磨、モテるんだ」


かなり小声で、志貴が呟いた。


「…心配?」

「誰が! 私が好きなのは祐也だし。二人きりの方が嬉しいし」

「拓磨はずっと志貴一筋だよ」

「だから関係無いもん」


(『もん』って…)


普段とは違う志貴の口調に俺は思わず笑ってしまった。


俺は、志貴が好きだ。


そして、志貴も俺が好きだ。


しかし、俺達の間に、今は恋愛感情は無いことに


少なくとも、俺は気付いていた。


だからといって、志貴はまだ拓磨を特別に好きというわけではない。


ただ、普段から好きだと


側にいるのが普通の拓磨がいないのが


普通に寂しいのだろうと思う。


(寂しいって思ってもらえるだけ進展したって事かな)


拓磨には冷たくされている俺だが、拓磨がちゃんと志貴を好きだとわかっているし


(それに、拓磨はいいやつだしな)


俺は、拓磨が嫌いではなかった。


志貴を振った俺が思うのは間違いかもしれないが


俺は、志貴と拓磨は意外とお似合いかもしれないと思い始めていたのだった。

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