《MUMEI》
荻野ユウゴ
あれからどのくらい経ったのだろう。
ユウゴは夜の町をフラフラと歩いていた。
夜だというのに人通りが多い。
大きな交差点の向かいに建つ二つのビルの壁にはそれぞれ大型モニターが設置されてある。
そのモニターの右上には、ユウゴの顔写真が絶えず表示されていた。
ユウゴはそれを見上げ、かぶっていた帽子を深くかぶり直した。

あの会場を逃げ出して約一ヶ月後。
プロジェクトの創設者である荻野を殺したまではうまくいった。
しかし、それからあのプロジェクト関係者に近づくことはできなくなってしまった。
警備が厳し過ぎるのだ。
移動中ならば狙えるのではないかと考えたが、何も後ろ盾がないユウゴには、関係者たちのスケジュール情報を手に入れることが難しい。
どうにもしようがなかった。
一カ所に留まることもできないユウゴは、ただ必死に逃げ続ける日々を送っていた。

「ねえ、あの指名手配の奴、まだ捕まらないの?」
信号待ちをしていると、すぐ隣で女の声がした。
顔を前に向けたまま視線を動かすと、二十代前半のカップルがモニターを見上げていた。

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