《MUMEI》

彼と会ったのは、五年前。コンビニで、バイト君な俺はいつものように少し落ち着いた時間を見計らって入口近くの雑誌のコーナーで埃を払い落としながら整理していた。
「いらっしゃいませ!こんばんは〜。」
ドアが開いて、今夜も結構な客入りだ。
中心街にあるせいか、夜遊び中の学生やビジネスマン、華やかな服装をした夜の仕事関係の人達がよく来る。
「佐倉くん、ちょっと!」
「はい。」
ちょうど、キリが良くなった所で店長に声を掛けられてレジに向かうと店長の前にダークなスーツを着た男が立っていた。
カウンターにいながら、会計もせずわざわざ俺を呼んだ店長はなにやら不安げな表情をしている。
「何かあったんですか?」
カウンターに入り、店長に尋ねると
「お前が、佐倉雅か?」
立っていた男が、威厳のある低い声でいきなり話し掛けてきた。
「そうですけど・・何か?」
「・・・・・。」
俺の応えに、その後の言葉もなく品定めでもするようにただじっと見てくる。
歳は、雅(23歳)より上で30代前半位だろうか。額にかかる前髪は少しだけで残りは後ろに流している。目鼻立ちもスッキリしていて、形の良い唇は男の俺から見てもなんとなくセクシーさを感じる。
(身体もがっしりしてるし、スーツの中はきっと鍛えられたすげえいい肉体なんだろうなぁ。多分・・・いや、女は皆こんな男をほっとく訳がない。より取り見取りで・・・なんか、ムカつくかも。)
最近、彼女をスーツの似合う年上の男に取られた雅としては、スーツをきた年上の男を見ると嫌な印象しか持てない。
(ま、いわゆるヒガミ・・ってやつだけどな)
そんな事を考えていた雅をよそに、男はまだ雅を見ている。
「あの・・・何の用でしょうか?」
隣のレジでは、徐々にお客様が並び店長が一人会計に追われている。
「なるほど。また来る。」
怪しげに、口角を上げて男は颯爽と帰って行った。
「じゃなくて・・だから、何なんだよ。アレか?暖かくなってきたからか?変なヤツ増えてきたし・・まさか、振られた俺を笑いにとか・・・訳わかんねぇ奴だな。」
「佐倉くん、お願い。」
「あ、すみません!」
やっと、男がいなくなって店長もホッとしたようだった。
それからは、二人でいつもどうり会計に忙しく雅は謎の男の事などすっかり忘れていた。

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