《MUMEI》

「佐倉くん。取り敢えず落ち着いたし、もうあがっていいよ。ありがとう。」
夜も十時半頃になって、店長は店内を見回してから雅に声を掛けた。
「あ、山内ももう少しで来ると思うのでそれまでいます。」
本来なら、雅は休みだったがバイトの山内がかなり遅れると言う事で一人で大丈夫だと言う店長を無視して雅が出勤してきた。
「大丈夫だよ。強盗の一人や二人や三人来ても、私だって男なんだから!」
細い腕の、ない力(ちから)コブを見せつけるように店長が笑う。
「いえ、店長の場合心配はそれだけじゃなくて・・・ってか、強盗三人相手も店長には無理ですって。」
店長は、32歳と言う年齢だが童顔で華奢な身体のせいかその道の男達には堪らない容姿をしているらしく、前は店内でも押し倒されたりする事件が結構あったらしい。今は、強くて素敵なダーリン(?)がいて落ち着いたみたいだが・・・。
(ってか、男が男を押し倒すって・・・。)
それでも、一度だけ襲われる光景を目撃してしまった雅としても心配せずにはいられない。
「でも、佐倉くんにも本当は夜勤やらせたくないんだよね。ほら、君美人だから男の人にもモテるでしょ?君のヴァージンが奪われやしないか心配なんだよね。」
「ちょ・・ちょっと店長!今、サラっと恐ろしい事いいませんでした?」

可愛い顔で、ヴァージンとか時々店長はサラっと言うので逆に雅が恥ずかしくなる。しかも、店内には客だっている。
「え?佐倉くん、もしかして気づいてない?君は美人だって、君と友達になりたいってお客様多いんだよ。もちろん、私が断ってるけどね。だから、夜のお客様は男性が多いでしょ?」
自分の事は、棚に上げて本当に雅の心配をしてくれているらしい。
確かに、昔から日焼けのしにくい白い肌に、柔らかい黒髪がよく映え、未だ美人と言われる母親に似たせいか整った顔立ちも『カッコイイ』より『綺麗』と言われる事が多かった。過去の彼女達からは「雅君、あたしより綺麗すぎるから・・・」と、訳が解らないまま振られる事もあったり。
「前にも、ちょっと恐そうな男性が来たでしょ?佐倉くんの知り合いじゃなさそうだし、ずっと佐倉くんを見つめてて、でもレジにはお客様が並んでるし、さすがにあの時はどうしようかと思ったけどね。」
店長が言う、恐そうな男と言うのが誰の事を言っているのかさっぱり解らないまま雅が首を傾げていると、入り口のドアが開いて男が入ってきた。

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