《MUMEI》
疑似
その日から若菜の特技世話焼きが始まった。

クラス自由参加の大縄跳びに、男子の半数がじゃんけんで敗北し挑むサッカーにまで名前が勝手に書き込まれた。
極め付けは前後だから自然と息も合うだろうと言う意味不明な理由による俺と組まされたバドミントン!

なんだか、斎藤アラタが気の毒だ。




俺は無謀にも若菜に抵抗を試みる。
「…あの、斎藤の事なんだけど、本人が意見を言わないからって、勝手に決めてもいいのか?」

「良いんじゃないかしら。何も言わないイコール嫌じゃないイコールクラスに馴染もうとしている!ステキなことじゃない?」
超プラス思考。あんたは幸せ者だ。

「何か飲む?」
今日はバイト休みで家に若菜を呼んでいる。

「んー、要らないすぐに帰るから。」
若菜とは付き合って一年になる。高校入って直ぐに告白、今に至る。
俺達は、違うクラスだったが、何故か俺のクラスにやたら顔を出してきて、無断で俺の席に着いて友人と話していた。

じっと彼女を見つめていた。視線に気付いたのか、漁っていた鞄から手を置いて、がに股で胡座を掻きかけていた俺の脚の間にちょこんと若菜は正座した。

神妙な面持ちから笑顔に、「よかった、斎藤君と樹が友達になってくれて。」
眩しい程に、的外れ。

「……友達に見えるの?」
否定したい。断じて友情では無い、崇拝だ。

「樹は孤独を知っているから、仲良くしてあげて?」
時折見せることがある、彼女の半月に象る瞳。静かな微笑。
あれを出されては降参だ。
男より女の方が大人だと、彼女を送りながら考えていた。

彼女には敵わない。甘えてしまいたくなる。
「俺にはそんな資格は無いけれど」
可笑しさが沸き上がり、ほくそ笑む。

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