《MUMEI》

 





   さよなら

なんて言えなかった。

もし、はっきり言えてたら昭一郎を忘れてしまう。



「なあ、恋人出来たんだけど。昭一郎より若造だけどな、体とかイイカンジ。」

流石、弟。
俺を挑発しようとは。


「……店、新しく出すから移動しないか?」


「恋人出来たからすぐには無理。忙しくなるでしょ、今は付き合い始めの一番甘い時期だからね。来年は大学になるから合わせて移動しようかな。」

物おじせずに言ってくれる。この男から“恋人”“付き合い始め”だなんてSFでも有り得ない台詞だ。


「学生とか、犯罪ちっくな……」

一回り近く離れてるじゃないか。
昭一郎を差し置いて、ガキにお熱だなんて。


「犯罪スレスレの悪行三昧社長がよく言うよ。」

国雄は俺が過去に暴力団と癒着仕掛けていたことに気付いていた。
彼のポケットマネーにより上手く切り抜けられたところはある。

それからは俺も真っ当に働いて国雄には十分過ぎるほど返した。
体の関係は昭一郎の時以来何も無かった、俺が、変わったからだ。

国雄とは上司と部下として良い意味で互いに認め合い経営出来ていた。





昭一郎を思い出しながら
互いの自責の念を職務で忘れるために。

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