《MUMEI》 白花の開花「とても、綺麗。全てが、白く穢れない。そう、私はこんな世界が欲しかったの」 雪の様に降っては散っていく白い花を、その女性は至福に満ちた表情で眺め見ていた 声を上げ笑う女性。徐に背後を振り返りながら 「奇麗、でしょう?梟。この純白の世界こそ私が望んでいた世界なのです」 向けられる嘲笑に 血に塗れ、床に這いつくばるしか出来ないその男・梟は何を返す事もせず 否、返す事の出来る言葉を持ち合わせていなかったといった方が正しかったのだが 何のために純白を望むのか ソレが、全く理解できない 「私の言っている事が理出来ない、といった顔ですね。……あなたは存在そのものが罪だというのに」 手にした刃物 そこに付着している梟の血を、さも汚らしいといった顔で眺めながら ソレを、梟の顔の間横へと突き立てた 「けれど、それも直に終わるでしょう。世界は白に染まり、あなたも消える。そうすれば……」 嘲笑を梟へと向けながら、相手は徐にヒトを呼ぶ 部屋の中へと入ってきた数人の男共に、全く動く事をしなくなった梟を、外に放ってこいとの命を下す 「これからずっと、せめて大地と共に在り続けられるよう、私からのせめてもの慈悲です」 まるでゴミの様に無造作に土の上へと放りだされ 重々しい門扉は閉ざされた 無様に倒れ込んだ梟。その上に段々と白い花は積もっていき まるで彼の存在を消そうとしているかの様に、その量は多かった 「……白の、花」 仰向けへと体位を換え 梟は自身が降られる白の花に見入る 「……そろそろかな」 その一部始終を、木上から眺め見ていたその人物・殺鷹(あやたか)は 一人言に呟いて、軽い身のこなしでそこから降りる 「……誰だよ、お前」 目の前に突然降り立った殺鷹へ 梟は朧げな表情で殺鷹の方を見やった 掠れ、弱々しい声。だが殺鷹への警戒は決して忘れる事はない 「手負いであっても獣は獣、という訳か。いいかい?梟。私は殺鷹、君を迎えに来た者だ」 「俺、を?何で?」 「何故と聞かれてもねぇ。キミに会いたいという少女からの依頼、とでも言っておこうか」 言って終りに、殺鷹は梟を方の上へ 担いで上げるとそのまま歩く事を始める 「ちょっ……!降ろせ!」 「大人しくしていなさい。余り暴れると落としてしまうよ」 穏やかな笑みを梟へと向けながら、殺鷹は派手に土を蹴りつける 飛んで浮いたその高さは、およそ人間が飛びあがれる高さではなく 直に感じるその高さに、梟は顔を引き攣らせていた 「こんな高く……!?アンタ、本当に人間か!?」 「人ではないよ。私は」 驚くばかりの梟に、殺鷹は口元に微笑を浮かべながら だがそれ以上語る事はせず、突然に降下する事を始める かなりの高さから降りたにも関わらず静かな着地に 梟はほっと胸を撫で下ろしていた 「怖かったかな?悪かったね」 さして悪びれた様子のない謝罪を返してやりながら 殺鷹は梟を肩から降ろす 一体ここは何処なのかとの彼からの問いに 「……ここは、この世界で唯一、(白鷺)の力が及ばない黒花の領域。言ってみれば君の場所だ」 「白鷺って、もしかしてさっきの女か……?」 「そう。彼女はお役目熱心でね。白花が全てに咲き乱れない事に苛立っているらしい」 「……それが、俺と何の関係があるってんだよ?」 意味が分からない、と食って掛ってくる梟に 殺鷹は深々しい溜息を一つ 「誰一人として君の存在意義を、君に伝える事をしていないようだね。困ったものだ」 言って終わりに鳴り響いたのは銃声 殺鷹の目の前に大量の朱が散った 「な……!?」 短く呻く、梟の声 白鷺によって散々痛めつけられた身体はいとも容易く地に落ちていく 「暫く、休みなさい。この白花の群れも一時的なモノだ。どうせ、すぐに枯れて果てる。キミは何も心配する事はないんだ」 殺鷹の、低く柔らかな声 薄れていく意識、自身が失われていく感覚 ソレが、梟にはたまらなく恐ろしく感じられた 不安で仕方無いといった梟へ 殺鷹はまるで子供をあやすかの様に手で髪を梳いてやりながら 「恐がることはないよ。今はまだ君が動くべき時ではないだけだから。何かを難しく考える必要はない、ゆっくり休といい」 前へ |次へ |
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