《MUMEI》

溜め息をついてぼんやりとしていると──2階の方からヴァイオリンの音色が響いてきました。

淑やかで甘美な旋律。

僕は仕事の手を止めたまま、その音色に耳を傾けていました。

目を閉じて聴いていると、それはまるで──夢の中にいるような心地。

そして、ほんの少し切なくなります。

僕はあの御方に恋をしてしまった──。

その気持ちを抑えるのは、恐らく血を欲する事を制御するよりも難しいのではと、僕は思うのです。

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