《MUMEI》
魔人
麻美は男二人に説明した。
「私を軽く縛りなさい。剣はここに隠しておく」
麻美は腰から剣を抜くと下に置いた。
「そして魔人が現れたら、この剣で一刀両断して終わりだ」
男たちは蒼白な顔で聞いた。
「本気で言っているのか?」
「もちろん本気よ」
麻美は大胆にも両腕を水平に広げた。
「さあ、緩く縛りなさい。緩くよ」
「緩くだな?」
二人は目と目で合図すると、麻美を縄で縛った。
「緩くだ、緩く!」
麻美は両腕に力を入れた。
「これでは自力でほどけない。もっと縄を緩くしなさい」
「さっきっから小娘のくせに何俺たちに命令してるわけ?」
「え?」
まずい。麻美は慌ててもがいた。
「どうやらお仕置きが必要だな」
「へへへ」
男は麻美の脚もガッチリときつく縛ってしまった。
「ほどきなさい、ほどいて!」
麻美は必死にもがいた。
「ほどいてほしいか?」
「よし、じゃあ俺がほどいてやる」
男は麻美の着物の帯をほどこうとした。
「ばか、やめろ!」
赤い顔で怒鳴る麻美に、男たちは淫らに迫る。
「生意気な娘だ。もみもみしてあげようか?」
「貴様…」
睨む麻美。しかし二人は胸を触った。
「もみもみ」
「あ、やめろ!」
「もみもみ」
そのとき、草の音が背後から聞こえたので、男たちは振り向いた。
そこには、男の大人の二倍はある身長の者がいた。
真っ黒い体。頑丈な岩のような肉体。麻美は目を見開いて凝視し、男二人は目を丸くして怯えた。
「で…出たあああ!」
まさか本当に魔人がいたとは。大きさからして明らかに人間ではない。
麻美はもがいた。
(まずい。縄がほどけない…)
魔人は口から赤い大蛇のごとき舌を二本出すと、男二人をぐるぐる巻きにして空中に上げた。
「ぎゃあああ!」
「命だけは、命だけは!」
魔人はゆっくり首を左右に振った。
「だーめ」
月光に麻美の姿が照らされる。魔人は彼女を直視した。
「およよ」
目が危ない。麻美は生きた心地がしない。
「いい」
魔人は男の顔を見ると頷いた。
「いい」
「気に入っていただけましたか?」
「村一番の美少女を連れて来ました。この努力に免じて…わあああ!」
もう男に用はないとばかり、草むらにポイ捨て。
魔人はゆっくりと麻美に歩み寄った。
「いい」
麻美は慌てた。どうやっても縄はほどけない。
(どうしよう、やられちゃう)
額に汗する麻美に、魔人は話しかけた。
「怖がらなくてもいいよん。僕ちゃんは優しいから、そんなにひどいことはしないよん」
麻美は神妙な面持ちで魔人を見上げた。
「かわいいねお嬢。名前はなんてえの?」
「……」
万事休すか。
そのとき。魔人の背後でバチバチと花火のような音がした。
「ん?」
魔人が後ろを振り向く一瞬で縄は切られていた。
「え?」
黒装束。忍びか?
「さあ早く」
女の声。女忍者。くの一だ。
麻美は素早く剣を拾う。魔人が気づいた。
「あああ!」
二人は走った。
「あなたは?」
「話はあとよ」
魔人が追いかけて来る。
「待ーてー!」
捕まれば終わりだ。二人は必死に逃げた。
「逃がすか!」
くの一は立ち止まると、地面に何かを叩きつけた。
白煙が上がる。
「のわった!」
魔人も立ち止まった。煙が消えたときは、もう忍者と生贄の姿はなかった。
「しまったあ。好みだったのに」
魔人は生贄にされた美少女の顔を思い浮かべると、不気味な笑顔になった。
「でも諦めないよ。ぐはぐはぎひひい!」
悪魔の笑い声が闇夜に響き渡る。
一方麻美は。
「こっちへ」
くの一に言われるままに小屋に入った。
「あなた様は?」麻美が再び尋ねた。
「お師匠さまから言われました。麻美殿を守ってくれと」
「お師匠さまが!」麻美は驚いて女忍者を見た。
「危ないところでしたね」
麻美は跪いた。
「命の恩人です。ありがとうございます」
「私は彩。よろしく」
「彩殿…」

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