《MUMEI》
「兄貴〜…英和辞典貸して……」
弟の静流が、部屋のドアから顔を出している。
「机の上にあるから、取っていっていーよ、」
制服から着替えていたので顎で机の上を示唆する。
「宿題教えて〜!」
静流が背中に抱き着いて来た。Tシャツから顔を出すと案の定、シャツを被さった静流が背中に瘤みたいにへばり付いていた。
「ムリ、英語苦手…。あの〜、離れて下さいます?」
シャツが伸びると嫌だと感じて、手を無理矢理引っぺがす。
が、またシャツの上から引っ付いてきた。
…甘やかし過ぎたか?
母子家庭で、働いてる母の代わりに俺が家事全般等をやっていたので、大体母より身近な相談役だ。
最近バイトばかりしていたから遊んでなかったしな。
年子なのだが、静流は母親似で小柄な166センチ、約185センチ(最近伸びたが測っていない)の俺との体格差はかなりのものだ。
「ねー、なんで髪染めたりしたの?黒髪似合ってたのにさ、勿体ない。」
俺の髪をいじくりだした。立たせすぎ、立たせすぎ。
「……好きにさせてくれ、自分の髪だ。」
別の理由があるけれど、口には出さない、出してはいけない。
「バイト探そう、俺も背、高くなりたい。
羨ましい。兄貴みたいに…、父さんみたいになりたいな。」
ドクン
「なんで、親父が出てくるんだ。」
「え、何となく。
父さんと兄貴似てない?」
「……そうかな。」
背面で、静流が髪に触れる感覚が途切れる。
心拍数を抑えようと右親指の爪を噛んだ。
それに意識を集中させた。
悟られては いけない。
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